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忘れな草のキモチ3

  12, 2017 20:00
忘れな草0-350 
3



わたしの前の席の女子生徒は光元凛っていうキレイな人なんだけど、わたしのことはあまり好きじゃないみたいで話しかけてこない。
ちょっと目があってもツンとしてそっぽむくっていうか…何か気を悪くさせちゃったかな。
誰だって気の合わない人はいるから仕方ないかなとは思ってる。
無理に話しかけられないのは助かるし。

席が隣りだとグループ学習なんかも同じになるわけで。
実験だとか、実習だとか…
そういう時のメンバーは、光元凛さんと千田朝陽君と伊沢志季君とわたし…
微妙に気まずいなあ。

ある日、化学のグループ実験中に光元さんから「そこのビーカー取って」って言われた。
わたしが手を伸ばして取ろうとしたら、近くにいた伊沢君にさっと手渡しされてドキッとした。
それをおたおたと光元さんに渡したら、「とろくさい子ね」って小さい声で言われちゃった。(ははは… ま、いいか)

それよりも伊沢君にお礼を言えばよかったなと小さく後悔。
あの子猫を拾っていた時のことをふっと思い出して、そう言えば親切な人だったな、なんて。
だけど、今は親切だって感じたことは伝わらなかったと思う。
ー ありがとう
ひとことで良かったのに、わたしったら、(あ…)って固まって言えなかったんだもの。

目の前に差し出されたビーカーよりも、それを持っている彼の指に目がいってしまって。桜色の爪がきれいに切りそろえてある、細長くてしなやかな指だった。
そんなことばかり目に焼き付いて、肝心のお礼が言えないだなんて。
グループメンバーとして失格だし、最低限のマナーとしてもアウトよね。
…なんてちょっとうじうじしていたら、

「ちょっと、深見さん。ぼやっとしてないでさっさと実験進めてよ」
光元さんにダメ出しされてしまった。
すると千田君が「おお、すまんすまん。光元の手際の良さに見とれてたよ」ってフォローに入ってくれたので、彼女の機嫌がすぐに直ってよかった。
明るいだけじゃなくて気遣いの人なんだな、彼って。

伊沢君にも千田君にもお礼が言わえないわたし。
呆れられたかもってその夜はちょっと眠れなかった。
こういう失敗はたくさんしてきたのに、こんなに後をひくなんて初めて。

忘れ草3-0-2-300 



放課後、下駄箱から出てきた朝陽は横の志季に嬉しそうに話しかけた。
「深見って思ってた以上にいい子だな、志季。性格もかなり可愛い」
「……」
「あのシャイさは天然純粋培養だぜ。男として萌える。野郎どもにあんなに告られるのも納得だ」
「… そうかな」

「そうさ。男の気を引くために演じる子もいるが、彼女のウブさは本物だ。今時珍しいよな」
「あれじゃこの先困るだろう」
「志季が渡したビーカーを落としてしまうんじゃないかとヒヤヒヤしたぜ、俺」
「急につき出して驚かせたかも」

「ふむ、そうだな。お前も何か言って渡せばいいものをいきなりぬっとやらかすから」
「どう声をかけていいのか分からん」
「なに小学生みたいなこと言ってんだよ。お前、人のこと言えないじゃないか」
「その自覚はある」
志季の生真面目な返答に、朝陽はくつくつと小さく笑ったかと思うと、バシンとその背中を叩いた。

「カワイイやつだな、お前って。そういうところが気に入ってんだ、俺」
「言うな」
志季の憮然とした顔を見て、朝陽は吹き出し当分笑い続けた。


朝陽に笑われながらそれでも思い出していたのは、静香の驚いたように見開かれた瞳だった。
くるんとした睫毛がこれ以上はないくらい上がって、潤んだ瞳がこぼれ落ちそうだと思った。
ー おれ、怖がられているかも

志季はその怜悧な顔立ちと寡黙なせいで、一見冷たそうにも怖そうにも見えるらしい。
朝陽に言われるまでもなく自分でもそう感じてきた。
それがさらに口を重くして、他人との垣根を作ってしまう。

柔らかな物腰でひらりとその垣根を飛び越える朝陽。
光元凛の小意地の悪い物言いにもさらっと間に入って静香を助けていた。
おれにはできない芸当だ。
そういう朝陽だからこそ、こんな不器用な自分でも一緒にいられるのだと思うし羨ましくもある。

ビーカーを受け取った時の静香の反応を思い出して、志季は妙に気が重くなった。
女子生徒に対してこういう感覚を持つのは初めてだ。

*****

英語のconversationの授業で、伊沢君の話す英語がとても流暢で聞き惚れた。
いいなあ、いつまでも聞いていたい声…なんてぽわんとしちゃって。
この授業好き…なんて思っていたら甘かった。

「じゃあ今から5分間隣り同士で会話の練習な。text10の会話を交代ですらすら言えるように」
担当のHenry先生から出た指示にひっくり返りそうになっちゃった。
そうだった…
conversationの授業では時々、隣り同士で会話のやりとりを練習することがあるんだった。
げえ…わたしが伊沢君と?
む、無理むり… 顔が青ざめていくのが分かる。

- Let's start the conversation.
- Please speak your next.

伊沢君がわたしに向かって英語で話しかけてきた瞬間に、頭の中がボンッと弾けて真っ白になった。

- Don't be nervous.

textを読むだけでもハードル高いのに、textと違うことを言ってる!
何を言っているのかあたふたして思考完全停止。。。 
5分間、一言も返事ができなくて泣きたくなった。
伊沢君が何度か声をかけてくれたけど、結局タイムアウト。
勉強にならなくてあまりにも申し訳なくて。

「ご、ごめんなさい」
やっと声を絞り出して謝ったら、
「いや… 別に…」
と答えられた彼の声は素っ気なかった。
だけど淡々としてて嫌な感じじゃなくて。

後で依子たちに慰められても、なかなか浮上できなかった。
いつまでもしょげてても彼女たちに悪いかなと思って、無理に笑顔を浮かべようとしたら余計に疲れた。


その夜家に帰ってから、伊沢君が言ってたことをがんばって思い出してみた。
かなりゆっくり言ってくれてたそれは、中学生でも分かる簡単なものだったことが分かって恥ずかしくなる。
“緊張しないで”って言われて緊張して、どうするわたし…

怒らないで待っていてくれたこと
緊張しないでって励ましてくれたこと
馬鹿にしないでくれたこと

ー なんだか、なんだかわたし…
こうやって心の中に貯まってゆくことが増えてゆく度に、わたしの想いは少しずつ変わっていくみたい。
透明なサワーにほんのり色味と香りがついていくような、そんな感じかな。

だからってどうにもできない自分を歯痒く思う。
どうしたらいいんだろう。


continue...

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  •   12, 2017 20:00